リアルタイム多言語翻訳学習支援システム

 2016年より、日本語指導を必要とする子どもたちのために、多言語対応版算数・数学動画コンテンツ約3,300本を制作し、無償公開してきました。算数・数学学習に役立ったという声をいただいたのと同時に、対面授業の中で使えないかという要望がかなりありました。リアルタイムの対面授業の中でのやりとりを同時翻訳するというのは、かなり高度な技術が必要なのですが、昨年2月の生成AIの登場が、大きく状況を変えることになりました。最近の検証から生成AIの翻訳精度とそのスピードは極めて高いということがわかってきており、生成AIを内蔵すれば、リアルタイム多言語翻訳学習支援システムが開発できるのではないかと閃きました。

開発

 そこで、昨年11月よりトレンドリンク合同会社の稲澤孝規代表とともに、開発に着手しました。システムの概要は、授業での板書や、先生と生徒との口頭でのやり取りなどを同時翻訳し、それらをタブレット上に母語でテロップを流すとともに、自動音声読み上げ機能を使ってイヤホンを用いて母語で聞くことができるというシステムです。これが子どもたちの手元にあれば、言語の壁をあまり感じずに、授業に参加することが可能となります。開発費用は、昨年受賞した岩佐賞の賞金を用いています。

大阪府教育庁様への打診

この間、かなり実用に耐えうるというレベルまでの作りこみを行ってきました。いよいよ学校現場での実証実験の段階を迎えるにあたって、大阪府教育庁教育振興室高等学校課の林田照男課長より連絡をいただき、大阪府庁別館で会議を開きました。
 写真①は、会議に集まった先生方で、左から林田課長、日本語指導を必要とする子ども支援のためのプロジェクト・チームの先生方10名、そして稲澤代表です。この「日本語指導を必要とする子ども支援のためのプロジェクト・チーム」は2024年4月に発足したばかりとのことです。10名の先生は昨年度までそれぞれの高等学校で勤務されており、4月から教育庁勤務をされています。
 写真②は黒田からの説明、写真③は稲澤代表からの説明で、その後、議論しました。

写真①
写真②
写真③

議論

  • 生徒の日本語レベルによって、これの使用形態が異なるのではないか。
  • ダイレクト生(高校入学時に来日して日本語がほとんどわからない生徒)には非常に有効に機能する可能性がある。
  • 小学校段階から来日している生徒では、逆に数学用語を母語に翻訳されると混乱する可能性がある。

など、極めて有益な知見を得ることができました。
私たちの方は、今後、実際の授業で高校生に使ってもらい、感想や問題点を指摘してほしいとお願いしました。

産官学連携による価値創造へ

 当日の朝に、水野達朗大阪府教育長に、メッセンジャーで「本日、よろしくお願いいたします。」と入れましたら、林田課長から「水野教育長がよろしくお伝えくださいと申していました。」とのことで、「教育長とはお知り合いですか?」と聞かれましたので、「はい、フェイスブック上での知り合いで、実はお会いしたことがなくて・・・」と言いますと、少々驚いておられました。

 今回は1回目の会合でしたので、意見交換を行うということで終えましたが、今後は何とか実用に向けて「産・官・学」の連携ができればと願っています。