これまでの数と計算の領域の内容では、それぞれの数(整数、小数、分数)の特徴を理解することと、四則演算の仕方を理解することが主な目標となってきました。倍数と約数、さらには公倍数と公約数では、数それ自体の分析と、数と数の関係性に目を向ける学習活動となります。ここに理解の難しさがあるのですが、同時に数の捉え方の拡張という視野の広がりがあります。
そのように考えるとき、一般的には倍数を学習してから約数の学習を行いますが、指導の順序を逆転させた方が、より上記の視点に子どもの意識が向くように思ったりします。倍数は、かけ算ですので、九九の延長という視点から子どもにとって馴染みやすい内容であるために、先に扱われているように思うのですが、数それ自体の分析という視点が希薄になりがちです。
数それ自体の分析や数と数の関係性を考える上では、個々の数の持つ個性(属性)をしっかりと知っておかなくてはなりません。その上で、異なる数と数の関係性は、個性のぶつかり合いですので、それらの数と数に応じて、異なる反応(公倍数や公約数が異なる)を示すということを知る必要があります。では、個々の数の持つ個性とはいったい何でしょうか。
例えば、12という数の持つ個性は、(1×)2×2×3と表すことで見出すことができます。なお、(1×)は、公約数に1が含まれることを強調するため、あえてここでは書いておきます。1が一つと2が二つと3が一つの数のかけ算によってできた数というわけです。このように変形することを、素因数分解(素因数というものに分解するという意味)と言います。そして、素因数とは、分解した要素、ここでは、2と3のことを指します。また、素因数の「素」という意味は、これ以上分解不能ということを意味し、その数自体と1しか約数のない数のことです。具体的には2,3,5,7,11、13、17、・・・となります。これらの数によるかけ算の状態にすることを素因数分解というわけです。
では、12と30の公約数を考える場合(正の数のみが対象の場合)は、12を1×2×2×3、30を1×2×3×5と素因数分解して、双方の共通項を見ていきいます。そうすると、1×2×3が共通項ですので、これらの組み合わせが公約数となるわけです。その結果、1、2、3、6(=2×3)の4つが公約数となり、その内の6が最大公約数になります。教科書では、12と20の約数を列記していき、公約数を求めますが、この方法だと、手間がかかるのと、漏れ落ちが少なくないというデメリットがあります(先の方法の検証のためには必要です)。最大のポイントは、数それ自体を「分解」しながら、属性を「分析」していくという視点が育ちにくいところです。
また、462と390といった大きな数になると約数の列記が大変になってきますので、下記のように素因数分解すると、とてもシンプルです。
462=1×2×3×7×11
390=1×2×3×5×13
約数と公約数の指導については、「算数授業要約ちゃんねる」でも取り上げていますので、ご興味のある方は、ぜひご覧ください。
次回は、倍数と公倍数について取り上げます。
投稿者プロフィール
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大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。
小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。
著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。
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