幼児の繰り返しを好む特性からもわかりますが、低学年での厳密な具体の場合は、繰り返すことによって体感させ、瞬時に反応できるまでのトレーニングが有効です。例えば、九九の学習において、何度も何度も唱えさせることで、答えが瞬時に出てくる状態まで持っていくことがそれにあたります。一方で、高学年での厳密な抽象の場合は、あまりに記憶することが多く、分岐が複雑になると、厳密な抽象へと向かう気力が衰えてしまいます。
 では、割合の学習はどう接近すれば、厳密な抽象へと向かうのでしょうか。万能薬がないのと同様、各指導法にも一長一短がありますので、絶対はありませんが一例を示します。まずは、第二用法:基準量×割合=比較量を、基準とするというものです。この用法は、2000円のTシャツがあります。本日は2割引です。何円でしょうか(消費税考えない)。というもので、2000×0.8=1600 1600円というもので、三つの用法の中で最も、厳密な具体と厳密な抽象がつながりやすいものです。どのような文章題であっても、まずはこの式に当てはめてから解くという指導です。そして、等式の性質を用いた式変形という厳密な抽象の方法を用いて、答えを導き出します。先の問題であれば、2000円と値引きした1600円がわかっていて、何割引かを求める際にも、2000×□=1600、□=1600÷2000、□=0.8、2割引と解くわけです。もちろん、三つの用法を瞬時に的確に用いることができればベストなのですが、なかなかそれは難しいです。
 大人である私たちを振り返っても、こうした割合の場面では、第二用法に入れ込んでみて、式変形することの方が多いのではないでしょうか。また、計算をしてみて「あっ、割る数と割られる数が逆!」と間違いに気づくこともあります。大切なのは、少数の厳密な抽象の原理の理解と、得られた答えの妥当性をチェックする感覚を磨くことだと思っています。(終了)

投稿者プロフィール

黒田恭史
黒田恭史
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。

小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。

著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。