小学校低学年での厳密な具体をもとに、高学年では厳密な抽象が取り上げられます。厳密な抽象は、3年生くらいから少しずつ入ってきて、5年生でピークとなります。xやyといった文字や文字式、単位や助数詞のつかない数などがありますが、割合はその中でも最も理解が難しい内容といえます。割合の難しさの要因は主に以下の三つです。
 一つ目は、文章から、基準量、比較量、割合などを適切に抽出することが難しいこと。
 二つ目は、求めるべき数値に応じて、第一用法:比較量÷基準量=割合、第二用法:基準量×割合=比較量、第三用法:比較量÷割合=基準量の内から、適切な用法を選択し、立式することが難しいこと。
 三つ目は、小数の入った乗除の計算を正しく行い、答えに正しい単位、助数詞、倍などを付けるのが難しいこと。
 この過程を見ると、大人でも少々滅入ってしまいます。あまりにも手順が複雑で多いと、厳密な抽象に思考が向かうのではなく、簡便な方法での解決手順を記憶する方向へと思考が逃げてしまいがちです。そのため、文章内の助詞に着目させて機械的に三つの量を抽出させたり、「くもわ」などの記号を用いて式の意味をあまり考えさせずに計算させるといった指導になってしまいがちです。
 次回は、厳密な抽象に接近するための割合の指導について書きます。

投稿者プロフィール

黒田恭史
黒田恭史
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。

小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。

著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。