少し話題を変えますが、算数の指導においては、一般的に低学年は具体的操作を多用し、高学年では形式的操作へと移行するとされています。これを具体と抽象と言う言葉を用いると、学年が上がるにつれて具体から抽象へと軸足を移していくといえます。
 では、割合の学習で扱う、具体と抽象は何でしょうか。基準量や比較量は、何人ということなので具体です。一方、割合は、何倍ということなので、そこには単位も助数詞も付いていません。したがって、割合は抽象です。
 抽象は、地に足の着いた感じがしないので、なんとなく難しいイメージになりますが、その一方で、様々な異なる局面をつなげてくれる役割があります。例えば、「定員が50人の講座に85人の希望者があり、希望者の人数は定員の人数の何倍ですか」では、85÷50=1.7 答え1.7倍でした。この1.7倍は、定員100人に希望者170人の場合や、定員500人に希望者850人場合にも、同様に等しく成り立ちます。つまり、全く異なる具体があったとしても、割合という考えを用いれば、それらが同じ仲間であるということを教えてくれるのです。
 次回は、幼児期における具体と抽象について書きます。

投稿者プロフィール

黒田恭史
黒田恭史
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。

小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。

著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。