等号・不等号の議論を別のとことでしていたことに誘発されて、方程式に対する私の考え方を改めて整理してみました。
 中学校の数学では、方程式を解くという言い方をします。x+3=8という方程式の場合、等式の性質を用いて、左辺と右辺に-3を付け加えて、x+3-3=8-3、x=8-3、x=5と解きます。ただ、私は、この「方程式を解く」という言い方には少し抵抗があります。
 というのも「問題が出され、その答えを求めよ」という、いわゆる数学授業の典型的な手法が、生徒の数学嫌いや、数学の苦手意識につながっているように感じるからです。正解は教師の手元に置かれており、生徒はその正解に向けて、最短かつ最適経路を用いて辿り着けと言われているようで、何ともかわいそうな気がするのです。そして自分の導き出してきた答えが正しいのか誤りであるかは、先生の判断に全て委ねるということが繰り返しなされていけば、数学の成績が優秀な成功者としての生徒以外は、誰もが数学を嫌いになってしまうでしょう。話が極端になりましたので、本題に戻ります。
 私は、「方程式を解く」から「方程式を解きほぐす」へと意識を転換させることが、この悪循環を断ち切る一つの方策であると考えています。x+3=8という方程式からx=5までの過程は、方程式を少しずつ解きほぐしていることに他ならないからです。少し比喩を使いますが、x+3=8はイヤホンのコード線がこんがらがった状態で、x=5はイヤホンのコード線を解きほぐしてすっきりした状態ということです。すなわち、いずれのイヤホンの状態でも、イヤホンジャックに差し込み、イヤホンを耳に付けると音楽が聞こえるのと同様、x+3=8とx=5は同じことを言っているのです。ですので、「方程式を解きほぐす」ことの意味を生徒と共有し、例えx=5まで辿り着かずとも、少しでも方程式を解きほぐすことができているのであれば、そのこと自体をしっかりと評価するような数学教育のあり方がこれからは大切であると感じています。

投稿者プロフィール

黒田恭史
黒田恭史
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。

小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。

著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。