子どもの様々な意味での多様化が進行する中にあって、学級内の子どもの同質性をある程度前提としたこれまでの算数・数学授業の中で目標とされてきた「思考の飛躍」と「概念の定着」の学級全体での「共有化」を、今後も保障することが可能なのでしょうか?
皆さんからのメッセージ等を踏まえ、ここでは3つの可能性を考えてみました。
①一つ目は、現在の対面授業での「思考の飛躍」と「概念の定着」の学級全体での共有を目標とした授業形式を踏襲するというものです。不登校の子どもなどへは、対面授業を録画・配信するなどして補完的に対応します。
②二つ目は、個別最適化を目指した授業全体におけるICT活用などによる授業形式の転換です。ここでは「概念の定着」の全体での「共有化」は死守しつつも、「思考の飛躍」については個人やグループにかなりの部分を委ね、同時期の全体での共有までは求めません。
③三つ目は、生成AI等を用いて、個人間のタイムラグを前提としつつも、「思考の飛躍」と「概念の定着」における共有化(学級全体まではいかない)をねらう新たな授業形式です。
次期学習指導要領の告示を目前に控え、各自治体や学校は、当面は①で行こうとするのか、あるいは早い段階から②へと移行するのかが読めないところがありますが、今後も①のままで行ける学校はかなり限られてくることが予想されます。
一方で、③は、生成AI等の教育への可能性がどこまで進展するのかにかかってきますが、これからの学校教育のあり方における選択肢としては見過ごせない存在となると考えています。
これからも、できるだけ様々な可能性を探り、算数・数学授業のあり方について研究していきたいと思います。
投稿者プロフィール

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大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「生成AIを用いた算数・数学教育」。
小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。2008年には『ブタがいた教室』として映画化。
コロナ禍の中で、日本語及び多言語に対応した算数・数学動画教材約3,300本を制作・公開した取り組みにより、2022年第7回IMS Japan賞優秀賞受賞、2023年第3回SDGsジャパンスカラシップ岩佐賞(教育の部)受賞、2023年日本民間放送連盟賞(特別表彰 青少年向け番組)最優秀賞受賞した。
著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「初等算数科教育法序論」(共立出版),「オリガミクスで算数・数学教育」(共立出版)などがある。
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