算数・数学の「授業全体」を通したICT活用が敬遠されがちなワケとして、「思考の飛躍」と「概念の定着」の学級全体での「共有化」を、算数・数学を教える先生たちは重視しているからではないかと提案しました。この傾向は、他の教科と比較して、「国語教育(言語教育)」と「算数・数学教育」に強く生じるのではないかと思っています。
その理由は、「国語教育」と「算数・数学教育」が、思考の規範に大きく関係するからだと考えています。ここでは、思考の規範という意味を、判断・評価・行為などの基準となるべき原則として用います。ざっくりと、言語(物語的な解釈の多様性を持つものを省く)が人間同士における規範であるとすると、数学は人間と事物との間の規範であると捉えることができます。事物に対して、それを判断する上での、個数であったり、重さであったり、長さや面積であったりといった規範と成り得るという意味です。とすると、言語と数学という規範自体に解釈の多様性を認めることは、様々な混乱を生じさせる原因となります。
理科や社会化などの教科は、この言語と数学という規範をもとに、様々な現象を記述・分析し、独自の解釈や見解を持つことが求められます。逆に言えば、言語と数学という規範のところがぐらつけば、たちまち独自の解釈や見解が崩れてしまいます。
そのため、算数・数学の授業では、学習者の規範への確信と定着に、多大なエネルギーを費やします。よく言われる「ゆさぶり発問(正解と異なる発言を教師が意図的に行うこと)」も、この規範への強固な確信を誘うための、教育技術の一環といえます。果たして、この狙いが、算数・数学における一斉授業の中で、今後も保障され続けることができるのかどうか、そこが問われ始めていると感じています。
投稿者プロフィール

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大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「生成AIを用いた算数・数学教育」。
小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。2008年には『ブタがいた教室』として映画化。
コロナ禍の中で、日本語及び多言語に対応した算数・数学動画教材約3,300本を制作・公開した取り組みにより、2022年第7回IMS Japan賞優秀賞受賞、2023年第3回SDGsジャパンスカラシップ岩佐賞(教育の部)受賞、2023年日本民間放送連盟賞(特別表彰 青少年向け番組)最優秀賞受賞した。
著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「初等算数科教育法序論」(共立出版),「オリガミクスで算数・数学教育」(共立出版)などがある。
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