算数・数学の授業では、GeoGebra等の無料のアプリケーションソフトを活用して、教科書やノートでは表現できない、3次元の図形やグラフを自在に作成し、動的に観察するといった場面でICTを活用するといった、どちらかというと授業でのピンポイント活用の教育効果が期待されています。また、統計(データの活用)の学習場面では、マイクロソフトのエクセルの活用なども、データ整理と分析において取り入れられたりします。
授業全体をICTを活用して実施しているものとなると、高等学校の数学の授業等でタブレットが多用されていたりしますが、多くは教科書・ノート替わりの活用ですので、それほど大胆な授業改革という感じは見られません。もちろん、私が知らないところで有効活用されているかもしれませんので、その際はご容赦下さい。
一方で、社会科等の授業では、(専門外なのでその教育効果を精緻に分析することはできないのですが、)各自がテーマを設定するところから始まり、計画を立て、資料収集を行い、資料の読み解き・分析・自論の構築への一連の過程において、ICTが授業全体を通して効果的に活用されているようにも思われます。
もう少し極端な言い方をすると、算数・数学を教えている先生は、あまり授業全体を通してICTを活用したがらない、あるいはそのようにすることに教育的効果を感じ取りにくいといえるのかもしれません。その要因はどこにあるのでしょうか。
私は、その最大の要因は「思考の飛躍」と「概念の定着」の学級全体での「共有化」を、算数・数学を教える先生が重視しているからだと考えています。たとえば、問題解決学習では、「自力解決」時点で個人の「思考の飛躍」がなされた場合、それを「集団討議」の場で発表させることで、「思考の飛躍」の子ども同士での連鎖を誘発し、「思考の飛躍」を学級全体で共有化しようとする意識が強く働きます。また、「概念の定着」の際には、ある特定の個人において定着しただけでは十分と捉えず、学級全体の子どもの確実な定着を目指します。もちろん、そのことが全員の子どもに対してできたかどうかは、不確かではありますが、目指すべき方向はそのようになっています。
授業全体でICTを活用すると、この点の押さえがどうしても弱くなると感じ、敬遠されるのではないかと思っています。
投稿者プロフィール

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大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「生成AIを用いた算数・数学教育」。
小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。2008年には『ブタがいた教室』として映画化。
コロナ禍の中で、日本語及び多言語に対応した算数・数学動画教材約3,300本を制作・公開した取り組みにより、2022年第7回IMS Japan賞優秀賞受賞、2023年第3回SDGsジャパンスカラシップ岩佐賞(教育の部)受賞、2023年日本民間放送連盟賞(特別表彰 青少年向け番組)最優秀賞受賞した。
著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「初等算数科教育法序論」(共立出版),「オリガミクスで算数・数学教育」(共立出版)などがある。
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