昨日のオンライン研究会の終了後の雑談で、ある方が「自由進度学習と言い出してから、学校がどんどんとフリースクール化してきていると感じる」と言われ、考えておりました。確かに、学習の基本フレームは、学校の方が強固でしょうから、一概に同じと言えるわけではありませんが、考えておかなくてはならない大切な事柄と思うようになりました。
第1次産業革命による社会からの要請が、同年齢一斉授業形式を生み出したとされています。チャイムによって一斉に作業(学習)が始まり、チャイムによって短時間の休憩が許され、そして次のチャイムとともに、再び一斉に作業(学習)が開始される様は、まさにベルトコンベアによる作業工程に沿った人材育成につながるものであったといえます。また、小賢しいことを言わない程度のレベルで、それでいてある程度の学力を持たせておくことが、経営者側からは好まれたのでしょう。
現在では、こうした同年齢一斉授業形式の弊害が、不登校などの形で顕在化していると指摘する声もあり、学校の在り方が問われるようにもなりました。フリースクールなどが、不登校の子どもたちの居場所づくりに参画し、多様な学びの形式が取られようとしています。このような中にあって、「自由進度学習を学校が取り入れる」ということは、どういう意味と影響を及ぼすのでしょうか。
ところで、2018年6月25日には、経済産業省「『未来の教室』とEdTech研究会-第1次提言」において「個別最適化」と「EdTech」いうキーワードが示されました。
時を同じくして2018年6月5日には、文部科学省「Society 5.0 に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」において「公正に個別最適化された学び」というキーワードが示されるとともに、未来の学校像について「Society 5.0 における学校は、一斉一律の授業スタイルの限界から抜け出し、読解力等の基盤的学力を確実に習得させつつ、個人の進度や能力、関心に応じた学びの場となることが可能となる。また、同一学年での学習に加えて、学習履歴や学習到達度、学習課題に応じた異年齢・異学年集団での協働学習も広げていくことができるだろう。」としています。
まさに、自由進度学習の青写真が描かれているとも見て取れます。
このように書いていくと、同年齢一斉授業形式は、時代遅れのベルトコンベア式授業と捉えられてしまいがちですが、そのように即断することには注意が必要であると考えています。産業革命に端を発した同年齢一斉授業形式ですが、時代の変遷の中で教師は様々な工夫と意味づけを行ってきました。「学級集団作り」「子ども同士の意見の練り合い」「教師の揺さぶり発問」などといった教育用語は、そこに同年齢の子どもたちが集団として学ぶことによる意味と価値と、そして確かなる集団としての成長を感じ取っていた教師集団が創り出してきた言葉として、今も輝きを失うものではありません。
さて、希望ある未来を力強く創り出すことのできる若い世代を育てるために、学校を含む様々な教育機関は、それぞれどのような理念と特長を持って、全ての子どもたちを包摂する形でヴァージョン・アップしていくべきなのか。教育課題が山積する中ではありますが、これをピンチがチャンスと捉え、知恵を絞っていく必要があると思っています。
投稿者プロフィール

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大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「生成AIを用いた算数・数学教育」。
小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。2008年には『ブタがいた教室』として映画化。
コロナ禍の中で、日本語及び多言語に対応した算数・数学動画教材約3,300本を制作・公開した取り組みにより、2022年第7回IMS Japan賞優秀賞受賞、2023年第3回SDGsジャパンスカラシップ岩佐賞(教育の部)受賞、2023年日本民間放送連盟賞(特別表彰 青少年向け番組)最優秀賞受賞した。
著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「初等算数科教育法序論」(共立出版),「オリガミクスで算数・数学教育」(共立出版)などがある。
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