小学生の頃、私の生まれ育った大阪府の能勢(のせ)には、学校以外の教育機関は、そろばん塾と習字教室しかありませんでした。私は、母親に言われてそろばん塾に通うことになりました。そろばん塾は、座席も指定ではなく、長机と座布団が置かれた空いているところに座って、各自のテキストを開いて各々が異なる難度の計算問題を解いていきます。先生は、頃合いを見計らって近くに来て、アドバイスをします。小学校低学年の子どもから高学年の子どもへと、下校時刻に応じて通ってくる子どもが異なり、異学年集団の難度の異なる学習が、一つの大部屋の中で実現していました。
 私は、嫌々ながら通っていたこともあり、そろばん6級で辞め、あとはそろばんを滑り台で滑らすという典型的な落ちこぼれでしたが、今から思い返すと、そろばん塾は、今でいうところの自由進度学習に近い環境であったのではと感じたりしています。
 みなさんは、どう思われているのでしょうか?
 それに加えて、西之園晴夫先生が2011年に報告した、高等教育におけるノンフォーマル学習(non-formal learning、不公式学習)などの理念も、こうした自由進度学習の理念とどう関連するか、じっくりと見ておく必要があると思っています。

日本教育工学会研究報告集11 (2), 29-36, 2011
http://www.ks-pl.org/?action=common_download_main&upload_id=435

投稿者プロフィール

黒田恭史
黒田恭史
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「生成AIを用いた算数・数学教育」。

小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。2008年には『ブタがいた教室』として映画化。

コロナ禍の中で、日本語及び多言語に対応した算数・数学動画教材約3,300本を制作・公開した取り組みにより、2022年第7回IMS Japan賞優秀賞受賞、2023年第3回SDGsジャパンスカラシップ岩佐賞(教育の部)受賞、2023年日本民間放送連盟賞(特別表彰 青少年向け番組)最優秀賞受賞した。

著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「初等算数科教育法序論」(共立出版),「オリガミクスで算数・数学教育」(共立出版)などがある。