学会や会議の質疑応答場面で、質問者に対する回答の最後に「お答えになったかどうか、わからないのですが」や「お答えになっていないのかもしれませんが」を言われる回答者の方が増えているような気がします。
少しこだわってしまっているのかもしれないのですが、「お答えになったかどうか」は、回答者が決めるのではなく質問者が決めるのであって、答えになっていなければ再度質問すればよいし、それが無理だと判断すれば、会議の後に個別に話し合ったりすればよいのになあと思います。
このように書きますと、黒田は回答に自信があるからそう言うのであって、普通は質問に対して緊張するので、そうなってしまうのだと言われそうですが。ただ、「お答えになったかどうか」という言葉が、どういう心理から発せられているかということを考えておくことは重要であると思っています。
すなわち、「質問内容に対して適切に回答したつもりだが、もしかしたら質問者の意図に沿っていないかもしれないので、その際は言ってもらえれば、別の回答を用意しています」というよりも、「私の回答はこれで精いっぱいなので、もうこれ以上質問することは避けてもらえないだろうか」といった意識が強いのであれば、やはり議論を避ける方向へとつながるのであまりよくないかなあと思っています。
悪意のある質問、重箱の隅を執拗につつく質問、前提を全てひっくり返すちゃぶ台返し質問はダメですが、やはり少し批判的にでも討議を繰り返すことで、お互いが次のステージに行ける場合もありますので、そうした議論の風土を創ればなあと願っています。
少なくとも、小中学生が「お答えになったかどうかわからないのですが」と発言したとすれば、私なら「そんなこと言わずに自信を持って発表すればいいよ」と助言します。
投稿者プロフィール

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大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「生成AIを用いた算数・数学教育」。
小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。2008年には『ブタがいた教室』として映画化。
コロナ禍の中で、日本語及び多言語に対応した算数・数学動画教材約3,300本を制作・公開した取り組みにより、2022年第7回IMS Japan賞優秀賞受賞、2023年第3回SDGsジャパンスカラシップ岩佐賞(教育の部)受賞、2023年日本民間放送連盟賞(特別表彰 青少年向け番組)最優秀賞受賞した。
著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「初等算数科教育法序論」(共立出版),「オリガミクスで算数・数学教育」(共立出版)などがある。
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