「非認知能力」に関する様々なイベントは、現在も日本全国で行われていますが、中でも幼児教育の分野での取り上げられることが多いと思われます。
 私はその理由を2つと考えています。
 一つ目は、「非認知能力」が、幼児期の幼稚園、保育園、家庭での、日常的な生活や体験や遊びの活動に潜み、育成されていく能力であると捉えるからだと思います。もちろん、幼児期以降の様々な活動においても育成されるものではありますが、幼児期が抜け落ちた「非認知能力」は、適正時期といった観点からも、少し課題があると思われるからではないかと思います。
 二つ目は、幼児教育の世界では、いわゆる認知能力は「お受験」や「早期教育」につながるとしてどちらかというと敬遠されてきました。「非認知能力」の概念の登場は、「認知能力(学力)」を敬遠する幼児教育において、極めて魅力的に映ったのではないかと推察しています。幼稚園・保育園での遊びや生活にこそ、非認知能力を高める要素が散りばめられており、これが人間の成長において極めて重要であること、また、認知能力を下支える重要な能力であるということへのお墨付きが得られたという理由からです。
 さて、「非認知能力(社会・情動・行動的スキル)」を、図1の小塩(2023、Soto,2022のリスト改変)ように「自己管理スキル、自己管理スキル、社会参加スキル、協働スキル、情動的回復スキル、イノベーションスキル、複合的スキル」といった形で新たに構成し、意味づけようとする試みも行われているようです。ここでの項目を見ると、幼児教育から始まるものの、人間の成長過程において極めて高度なスキルまでをも包摂していることがわかります。すなわち、幼児教育はその始まりであるという意味では極めて重要な時期ではあるが、そこで完結するのではなく、小学校、中学校、高等学校における「非認知能力」の育成と、学校間の架け橋の観点を、さらに強調していく必要があると思います。

投稿者プロフィール

黒田恭史
黒田恭史
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。

小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。

著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。