非認知能力に関連するものとして、経済協力開発機構(OECD)は、社会情動的スキルを提唱しています。これが、非認知能力とどういう関係にあるかを明らかにしておくと、今後の議論が整理されるように思います。
 OECDは、社会情動的スキルを、「a)一貫した思考・感情・行動パターンに発現し、b)フォーマルまたはインフォーマルな学習体験によって発達させることができ、c)個人の一生を通じて社会経済的成果に重要な影響を与えるような個人の能力」としています。
 小塩氏は、「非認知能力とは」とした上で、「知能や学力として測定されるもの以外であり(非認知性)、何らかの形で測定可能であり(測定可能性)、社会の中で望ましいとされる何らかの結果を予測し(予測可能性)、教育、介入、投資によって変容可能である(介入可能性)、心理的な特徴のことを指す。」としています。
 この変遷を見ると、ヘックマンによって使用され始めた「非認知能力」という言葉は、社会情動的スキルの意味合いを随所に含む形で、言葉の持つ意味の輪郭が次第に形成されていったように思われます。ここで、ヘックマンとOECD間での、どのような関係、駆け引きがあったかはわからないのですが、人間の成長における「非認知能力」の重要性を強く指摘するという点では、両者の向かうベクトルが同じであったと考えられます。

投稿者プロフィール

黒田恭史
黒田恭史
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。

小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。

著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。