現在、教育界では、非認知能力という言葉が様々な局面で登場して、議論がなされています。正直、私はこの言葉を知った時点から、少し違和感を抱き続けてきました。その最大の原因は、認知でない(Noncognitive)という否定形で能力を規定するところにありました。人間の能力という全体集合が規定されていない(共有されていない)中にあって、認知能力の補集合を対象として議論するというのは、あまりにも議論が拡散してしまい、ぐちゃぐちゃになってしまったり、何でもありになったりするのではないかという危惧からでした。また、よく非認知能力は、「測定できない」能力であるといった言葉がセットでくっついてくることが多かったので、「えっ、そうなの?」って感じで捉えていました。
 そこで、同僚の赤松大輔先生に、心理学の分野で非認知能力を取り上げている論文を紹介してほしいとお願いすると、「小塩真司、「非認知能力」の諸課題 -測定・予測・介入の観点から-、教育心理学年報、Vol62、pp.165-183、2023」を教えてもらいましたので読んでみました。論点が明確に整理されており、非認知能力に対する捉え方が変わりました。そこで、この論文を手がかりに、私なりの非認知能力についての考えを記していこうと思います。

投稿者プロフィール

黒田恭史
黒田恭史
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。

小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。

著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。