2月9日の教育研究協議会の算数・数学分科会のあと、お一人の先生が話しかけてこられました。「中学校の数学の図形の問題で、問題文からすると間違った図を示して、生徒の試行錯誤を促そうとする授業を考えているのですが、どう思われますかか?」と聞かれました。
その時は、「間違った図を示すんですか? あまりよくないと思います。」と、とっさに答えたのですが、その先生が怪訝そうな顔をして「何故ですか?」としつこく聞いてこられました。あまり時間がなかったので、その場は中途半端な感じで終わってしまいました。
大学に戻る電車の中でそのことを考えていたのですが、私の心の中に大きな違和感が芽生えていました。その違和感とは、子どもの試行錯誤を促すためには、誤った情報を与えることもまた教育的であると捉えること対するものでした。言葉厳しめに言えば、子どもには間違った情報を与えても、教育してあげているんだから別に悪くないという教師の「傲慢さ」に触れてしまった感覚です。
私たちはこれを大人に対してできるでしょうか? ある場所に行きたいのだが行き方を教えてほしいと言われて、行く手順の文章と地図が合致しないものを「意図的」に手渡されたら、正直、私は怒ります。
子どもに対する誠実さや謙虚さを失った中で、手段を問わずに教えるという行為と、その結果(成績)がよければそれでよいのか、ということを考えさせられる時間でした。
投稿者プロフィール
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大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。
小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。
著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。