無藤先生からアドバイスいただきました、日本では算数から数学への転換期として、等式の性質の扱いが本格化するということについてコメントします。
実は中国では、小学校のかなり早い段階で等式の性質を意識した扱いがなされます。具体的には、不等号の導入が小学校1年生から6年生まで全体を通して、かなりの分量がある点に特徴があります。ちなみに日本では、小学校2年生の1単元のみで、分量に大きな差があります。中国の具体的な内容は、2年生 5×5○5+5、15○5+5+5、3年生 12×6〇16×2、5年生 4÷1/2○4×2、6年生 10/11○0.9のようなもので、○のところに不等号や等号(<、>、=)を記入するといったものです。このように、先に右辺と左辺が記されていて、その間を埋めるという活動は、等式や不等式の性質の意識に向きやすいと思われます。また、左辺に式があるだけでなく、右辺にも式が出てくる点も、意識化に役立つと思います。
一方、日本の算数では、こうした右辺と左辺の大きさを比較するといった活動が非常に少ないといえます。加えて、5+3=8を、「ご たす さん は はち」という日本語の文法特性、すなわち「=」を日本語では主語を表す「は」と読みますので、余計に左辺から右辺への一方向の流れが強調されると考えています。
絶対はありませんし、何かを強調すれば、何かを弱めることになるので、どちらがいいというわけではありませんが、等式の性質という観点からすると、日本の算数ももう少し不等号の扱いを充実させたらと思います。不等式では答えが範囲になるといったことも、答えが一つということに慣れきってしまった概念を少し揺さぶる意味でも大事だと思っています。
投稿者プロフィール
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大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。
小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。
著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。
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