授業において、先生の手元には授業の計画を記した学習指導案(細案、略案など)があり、子どもの手元には何もないということのアンバランスを以前から強く感じてきました。その結果、子どもたちの授業時間内での拠り所は、時計となってしまいます。「あと何分で終わるんだろう」という意識が、時計をちらちらと見る行為につながっていると思います。
 子どもの手元や黒板などに「学習案」があれば、そうした子どもの意識を変化させることができるのではないかと考えています。学習案とは、学習指導案を極限まで簡素化したもののことです。そんなものを先に示してしまうと、授業の醍醐味が薄れてしまうと感じられるかもしれませんが、私はそうは思っていません。コース料理を食べに行った際、コースメニューが先に示されたからと言って、興ざめしないのと同じです。むしろ、今日はメイン料理が本当においしそうで、ボリュームもすごそうだから、前菜は少なめに食べておいて様子を見ようといった自分の状態に応じた最善を計画することができます。
 添付した図は、京都市内の小中学校で実際に実施している学習案です。ちょっと、大がかりなものもありますが、要は授業の最初に10数秒で簡単にできるものが長続きすると思っています。何なら、学習案の1か所程度に予定時刻を書いておけば、先生のみならず学習者も時刻を意識して学習するようになります。学習者が先生の一つひとつの指示に振り回されるのではなく、学習者もまた、授業づくりの共同運営者であるという意識を持たせることが、主体的な学びにつながると考えています。

投稿者プロフィール

黒田恭史
黒田恭史
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。

小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。

著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。