2023年9月5日(火)、京都府長岡京市立長法寺小学校の授業研究に参加してきました。
 小1算数の「色板ならべ」は、直角二等辺三角形のピースをいくつも使って、正方形や平行四辺形、さらには、家や花の形を作るというもので、子どもたちは楽しく活動をします。先生も、「素敵な形が出来上がったね」や「花びらの色を工夫して作ったね」といった言葉をかけて和やかに進むのですが、「どこに算数の学習があるん?」というものが少なくありません。別に上記の言葉がけをするなという意味ではなく、その次にある算数の学習をしてほしいと感じます。
 ただし、「色板あそび」だけに終わらせないために、「色板ならべ」の算数としての学習のポイントを2つ記しておきたいと思います。
 一つは、直角二等辺三角形のピースという要素を用いて、複雑な形を構成するという視点と、複雑な形は直角二等辺三角形という要素の組み合わせでできているという、総合と分解の双方の見方ができるようになるということです。
 もう一つは、直角二等辺三角形のピースの動かし方には、まわす(回転移動)、ずらす(平行移動)、うらがえす(対称移動)の3種類があって、これらを組み合わせるとどこへでも、どのような向きにでも図形を動かすことができるということを体得することです。
 一つ目を何とか達成するところで終わっている授業が大半と感じます。しかし、系統性を見れば、小6の線対称・点対称、中1の3つの移動(平行、対称、回転)など、二つ目の内容のつながりが見えてきます。ただし、移動という行為は、時系列での動きを伴うものですので、実は子どもにとっては捉えにくい学習内容と言えます(話が脱線しますが、繰り下がりあるひき算で、数図ブロックを使ってひき算の過程を操作しますが、これも時系列での動きですので、操作後に式化したり、答えを求めたりするときに、ちんぷんかんぷんになっている子がある一定数います)。
 今回は、急遽その点を打開する提案をしましたので、授業する先生もかなり苦労されましたが、結果的には、予想以上の子どもの学習活動を見せてもらいました。「これはずらしてから回せばいい」といった、移動の順序と方法を合成した発言が見られるなど、子どもはここまで育つといった側面を見せていただくことができました。人類が構築してきた数学の世界への誘いは、小学校1年生から始まっていることを再認識する場面でした。
 写真①は子どもの作った作品を子どもたちが板書と比較している場面です、写真②は先生の「まわす」「ずらす」「ひっくりかえす」を指導している場面です。写真③は校内事後研の様子です、写真④は黒田の解説場面です、写真⑤はペアの子どもが相手の作品を再現している場面です。

投稿者プロフィール

黒田恭史
黒田恭史
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。

小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。

著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。