前回、教員定年延長制度についてアンケート調査をもとに述べましたので、今回は,文部科学省による小中学校の教員の退職者数の推移と今後の予想値を見ていきたいと思います(文部科学省「令和4年度(令和3年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況について」2022年9月9日より)。
今年度末の令和5年度末(R5末、2023末)から,退職者数のデータが乱高下することが予想されています。これは,R5末に60歳になる教員の定年が61歳に延長されるためで、R5末の退職者が激減するというものです。続いて、R6末には退職者数が増加しますが、これはR5末60歳の教員がR6末に61歳の定年を迎えるために増加するわけです。
次に,R5末に59歳になる教員の定年は62歳に延長されます。その結果,R6末には60歳、R7末には61歳(定年まであと1年ある)ですので、R7末の退職者が再び激減します。そしてR8末に62歳で定年を迎えるために再び退職者数が増加します。これを、61歳定年から65歳定年まで随時延長していきますので、R5末、R7末、R9末、R11末、R13末(2031末)までの約10年間をかけて、5回のV字乱高下が続くということになります。
このグラフを見ますと、61歳以上の先生の数が学校現場で増えたり減ったりするような錯覚を起こしそうになりますが、それは間違った見方です。61歳以上の先生の数は、確実に年々増加していきます。その増え方において、1年置きに山が来るという見方が正しい見方です。ではどのくらいの増えていくのかというと、R4末の退職者数が24,556人でしたので、ざっくり2万5千人を年間退職者数の基準と置きます(R3末以前もほぼ平らですので)。R5末の退職者数が1万3千人ですので、ひき算するとR5末の増加は1万2千人となります。次にR6末の退職者は2万3千人ですので、2万5千人からひき算すると2千人の増加となります。ここでの注意は、R4年末からR6年末における増加は、2千人ではなく、1万2千人+2千人=1万4千人であることです。少しゆっくりと考えていただくとわかるかと思いますが、ちょっと腑に落ちない方は、コメントやメッセンジャーなどでご連絡ください(要は、最初は61歳の先生だけで、だんだんと61歳、62歳、63歳、64歳、65歳の先生が増えてくるので、相当な数になるということです)。
同じように考えると、R4年末を基準にした場合、R7年末は1万4千人+1万3千人=2万7千人、R8年末は2万7千人+3千人=3万人、R9年末は3万人+1万3千人=4万3千人と、ちょっと想像することができない状態が試算されていきます。もちろん、これは各年齢段階の教員数を一定として想定していますので、実際はこれより少ないと思います。ただ、この年代の教員数は多いですので、かなりこの数値に近い状況が生じるのではないかと思います。また、このデータは定年退職以外の理由で退職する先生方も含みますので、その他の要因が含まれる可能性もあります。
次回は、年齢別の教員数のデータをもとに分析します。
投稿者プロフィール
-
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。
小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。
著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。
最新の投稿
- 教育全般2024年5月12日【質問】「資質・能力を育成する」という言葉遣いへの違和感
- 教育全般2024年4月7日【提案】学校における「プロボノ」精神の浸透を
- 教育全般2024年4月7日【提案】非認知能力をめぐって⑥ 「非認知能力」と「学級づくり」の関係
- 教育全般2024年4月7日【提案】非認知能力をめぐって⑤ そろそろ「非認知能力」という言葉を使うのをやめて「社動(シャドウ)スキル」と言いませんか