今年度から年次ごとに、1歳ずつ教員定年が延長される制度がスタートしますが、この制度に関して、①~⑥の質問項目について調査し、分析しました。
実施時期 2022年6月~7月
実施対象 近畿二府四県の府県市町村教育委員会(202件)
実施方法 郵送によるアンケート調査(5件法回答、及び各調査項目での自由記述)
それぞれの項目に対して、「5.重視する、4.やや重視する、3.どちらともいえない、2.あまり重視しない、1.重視しない」の5件法で回答を求めています
①61歳以上の教員を教育委員会のスタッフとして配置する
②61歳以上の教員を学校の管理職として配置する
③61歳以上の教員を中学校及び小学校高学年の教科の専科として配置する
④61歳以上の教員を初任期教員(講師含む)の指導教員として配置する
⑤61歳以上の教員を特別な支援の必要な子ども(不登校含む)対応教員として配置する
⑥61歳以上の教員にも60歳以下の教員と同様の仕事量や働き方を求める
回収数(率) 92件(約46%)
結果より、61歳以上の教員配置に関しては、「④初任期教員(講師含む)の指導教員」を最も重視し、次いで「⑤特別な支援の必要な子ども(不登校含む)対応教員」と「③中学校及び小学校高学年の教科の専科として配置」を重視する傾向にあります。これらは従前からの定年退職後の再雇用教員の際に、よく活用された方法ですので、それを踏襲しようとされていると思われます。
一方、「5.重視する」「4.やや重視する」が少ないのは、「②学校の管理職として配置」と「⑥60歳以下の教員と同様の仕事量」となります。この二つの項目は、「2.あまり重視しない」「1.重視しない」も多くなっています。今後1歳ずつ定年延長が引き延ばされていく中で、管理職が継続されると、次の世代の副校長、教頭のなり手不足にもつながる可能性があるため、各教育委員会は慎重になっているように見受けられます。併せて、給与の減額が議論されていますので、60歳以下の教員と同様ということも、実質的には難しいのかもしれません。
「①教育委員会のスタッフとして配置」は、重視するとしないが分かれた感があります。自治体の規模によって、ここにある程度人員を配置できる市町村とそうでない市町村があることが予想されます。この調査では、府県市町村教育委員会が管轄する小中学校数も記入してもらっていますので、そのあたりはもう少し深堀りできそうです。
慢性的な教員不足問題と、急速に進む少子化がもたらす学校数・学級数の今後の減少、定年延長制度の開始と、一国内で生じている問題とは思えないほどの複雑な構造が、学校現場に存在しています。今年度末の3月に、どの程度の先生方が定年延長制度を活用し、どの程度の先生方が早期退職するのかが、現時点では読めませんので何とも言えませんが、これからも注意深く見ていきたいと思います。
投稿者プロフィール
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大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。
小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。
著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。