小学校教科担任制に関して、①~⑦の質問項目について調査し、分析しました。
実施時期 2022年6月~7月
実施対象 近畿二府四県の府県市町村教育委員会(202件)
実施方法 郵送によるアンケート調査(5件法回答、及び各調査項目での自由記述)
それぞれの項目に対して、「5.重視する、4.やや重視する、3.どちらともいえない、2.あまり重視しない、1.重視しない」の5件法で回答を求めています
①中・高等学校の英語、理科、数学、体育の教員免許取得者を優先的に配置する
②小学校での外国語、理科、算数、体育の指導力に長けた教員を優先的に配置する
③各教員の教科の専門性を問わずに、満遍なく配置する
④現職教員に対する外国語、理科、算数、体育の指導力向上のための講座を開講する
⑤各学校で外国語、理科、算数、体育の指導力向上の研修を開講する
⑥現職教員が外国語、理科、算数、体育の指導力を向上できるような教材を提供する
⑦教科担任制に伴う教員の新たな採用枠の配置などの財政的支援を行う
回収数(率) 92件(約46%)
 結果より、教員配置に関しては、「②該当教科指導に長けた教員」を最も重視し、次いで「①中高の免許取得者優先」を重視する傾向にあります。一方、「③満遍なく配置」では、どちらともいえないが54%と最も多くなっています。教育委員会側としては、中高の免許取得者が望ましいと考えつつも、これまでの小学校教員採用実績からして、そうした配置は物理的に不可能であるとの判断が働いていると考えられます。そのため、該当指導に長けた教員を重視する教育委員会が最も多いと考えられます。一方、満遍なく配置するについては、どちらともいえないが半数以上となっており、これは教科担任制を導入した際に、該当教科指導の得手不得手を議論することが、学校現場内においてかなり難しいとの予測が働いたのではないかと思われます。既に、いくつかの自治体の教員採用枠では、該当教科の中学校免許も取得している小学校教員枠といった制度がスタートしており、今後の状況には変化が見られると予想されます。
 次に、各種講座等についてですが、「④現職教員指導講座」、「⑤各学校での研修増加」、「⑥指導力向上教材の提供」は、概ね重視される方向で議論は進むと思われます。ただ、どのような具体的な講座になるのかは、もう少し後にならないとわからない気がします。
 最後の「⑦財政的支援」については、重視すると重視しない大きく分かれる傾向にありました。財政的支援は、すなわち教科担任制導入に伴う教員数の増加が大半かと思われますので、各教育委員会の財政事情に影響するのかと思われます。ただ、財政支援なしで、教科担任制だけが導入されると、先生方への負担は大きくなることが予想されますので、注意が必要です。
 分析結果から教員養成における示唆としては、小学校と中学校の二校種の免許を持つ学生の養成の促進、小学生と中学生の両方の発達特性を理解する教育内容の充実などが挙げられます。

投稿者プロフィール

黒田恭史
黒田恭史
大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。

小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。

著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。