前回、小学校では、「学年が上がるにつれて具体から抽象へと軸足を移していくといえます」と書きましたが、では、幼児期はどうなのでしょうか。幼児期に抽象がないかといわれれば、それは違っていて、幼児期にも豊富な抽象(空想・想像)があります。幼児は自分が体験したり見たことのない宇宙のことや、体の内部のこと、地中にサツマイモが埋まっている様子などを、自由に想像して描くことができます。私が幼少のころは、ウルトラマンやウルトラセブンが全盛期で、はるか何万光年のかなたからやってきたなどと、得意げに話していたことを思い出します。もちろん、こうした「抽象」は、感覚的なものであって厳密性を持つものではありません。
したがって、幼児期には、感覚的な「具体と抽象」が存在し、それらが混在している状態と捉えることができます。ただし、だからと言って、不十分で未完成なものであると捉えることは誤りです。幼児が、見よう見まねに流行の歌を踊りながら歌う際、その子は歌詞の意味を正確に理解しているわけではありませんが、周りの大人は「上手に歌って踊れたね」と褒めます。思考の原石というものが、感覚的な「具体と抽象」にあることを、大人たちは子育てなどの経験から知っているからです。
次回は、小学校低学年における厳密な具体について書きます。
投稿者プロフィール
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大阪教育大学卒業,大阪教育大学大学院修士課程修了,大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪府内の公立小学校勤務8年の後,佛教大学専任講師,助教授,准教授,教授を経て,現在,京都教育大学教育学部教授。
京都教育大学では,小学校教員養成,中・高等学校(数学)教員養成に従事。近年の研究テーマは「数学教育と脳科学」の学際的研究。
小学校勤務時代,クラスで豚を飼うといった取り組みを3年間実践。フジテレビ「今夜は好奇心」にて1993年7月放映。第17回動物愛護映画コンクール「内閣総理大臣賞」受賞,第31回ギャラクシー賞テレビ部門「ギャラクシー奨励賞」受賞。
著書に,「豚のPちゃんと32人の小学生」(ミネルヴァ書房),「脳科学の算数・数学教育への応用」(ミネルヴァ書房),編著に「数学科教育法入門」(共立出版)などがある。
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